はじめに:深刻な人手不足、特定技能外国人が解決の鍵に
日本は少子高齢化が急速に進行しており、多くの企業が深刻な人手不足に直面しています。厚生労働省のデータによると、2025年2月の有効求人倍率は1.24倍に達し、2014年頃から求職者よりも求人数が多い「売り手市場」が続いています。このような状況下では、「募集をかけても採用できない」という声が国内企業の間で聞かれます。
一方で、国内で働く外国人労働者の数は年々増加しており、2024年10月末時点で230万人を突破し、過去最高記録を更新し続けています。外国人労働者を雇用する事業所の数も、6年前と比較して約1.58倍の約34万箇所に増加しており、その雇用は年々拡大していることが分かります。これは、国内の人材不足に伴い、外国人材を雇いたいという需要が高まっていることを示しています。
在留資格別の内訳を見ると、身分に基づく在留資格の数は大きく変化していませんが、資格外活動、技能実習、専門的・技術的分野といった就労目的の在留資格を持つ外国人労働者の数が顕著に増加しています。
国籍別では、ベトナムが全体の約25.3%を占め最も多く、次いで中国(香港・マカオを含む)が19.4%、フィリピンが11.1%と続いています。これはアジア諸国からの労働者の割合が高い傾向にあることを示しています。しかし、ベトナムと日本の賃金格差が縮小していることから、今後はインドネシア、ミャンマー、ネパールなど東南アジアからの労働者の増加が予想されています。
産業別では、「製造業」が26.0%と最も多く、次いで「サービス業(他に分類されないもの)」が15.4%、「卸売業、小売業」が13.0%となっています。人手不足が深刻な分野ほど、外国人労働者の受け入れが進んでいることがうかがえます。
このような背景の中、「特定技能」制度を活用した外国人材の採用は、中小企業にとって新たな活路となり得ます。本記事では、特定技能外国人を採用するメリットから、知っておくべき注意点、具体的な手続き、そして成功のための秘訣まで、初めて採用を検討する経営者の方向けに分かりやすく解説します。
1. そもそも「特定技能」とは?制度の基本を理解しよう
初めて特定技能外国人の採用を検討するにあたり、まずは制度の基本的な枠組みを理解することが重要です。
1.1. 特定技能制度の目的と背景
特定技能は、国内の中小・小規模事業者をはじめとした人手不足が深刻化し、日本の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきたことから、生産性向上や国内人材確保の取り組みを行ってもなお人材確保が困難な産業分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れることを目的として、2019年4月に創設された在留資格です。
この制度は、特定の分野での即戦力となる外国人材の確保を目的としています。従来の「技能実習制度」は、労働力として扱われたり、悪徳ブローカーによる高額な借金問題、失踪などの様々な問題が指摘された結果、廃止が決定されており、新たに「育成就労制度」が創設されることになりました。特定技能制度は、この育成就労制度の受け皿としても位置づけられています。
1.2. 特定技能1号と2号の違い
特定技能には「1号」と「2号」があり、それぞれ要件や可能な活動が異なります。
特定技能1号:
- 在留期間: 通算で上限5年。
- 家族帯同: 原則認められません。
- 技能水準: 相当程度の知識または経験(特段の育成・訓練なく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準)が求められ、各分野の技能試験に合格する必要があります。学歴要件はないため、試験に合格すれば取得に挑戦しやすい在留資格と言えます。
- 日本語能力: 日常会話ができ、生活に支障がない程度(日本語能力試験N4レベル以上が目安)が基本ですが、業務上必要な日本語能力水準が分野ごとに求められます。
- 特定技能16分野の全てが対象です。
特定技能2号:
- 在留期間: 上限がありません。
- 家族帯同: 要件を満たせば配偶者と子どもの帯同が可能となります。
- 技能水準: 熟練した技能(長年の実務経験等により習得した熟達した技能)が求められ、試験等で証明が必要です。1号を経由せずとも、直接2号の技能水準を満たしていれば取得できます。
- 特定技能16分野のうち、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業を除く12分野が対象です。介護分野においては、熟練した技能を有する人材は介護福祉士資格を持つことで「介護」の在留資格での在留が可能なため、特定技能2号での受け入れは行いません。
特定技能外国人は、複数の特定産業分野の業務に従事することも可能です。その場合、各分野の技能水準と日本語能力水準を満たす必要があります。
1.3. 特定技能で受け入れ可能な16分野
特定技能制度は、以下の16分野で人材を受け入れています。これらの分野は、特に人手不足が深刻な状況にあると判断されています。
- 介護
- ビルクリーニング
- 工業製品製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 自動車運送業
- 鉄道
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 林業
- 木材産業
2. 中小企業が特定技能外国人を受け入れる5つのメリット
特定技能外国人の採用は、単なる人手不足解消に留まらない、多岐にわたるメリットを企業にもたらします。
2.1. 深刻な人手不足の解消
人材不足の解消は、外国人労働者を受け入れる最も直接的なメリットです。日本人材だけでは不足している専門的なスキルや経験を持つ労働者を確保する機会が広がります。例えば、電子・電気や機械系のエンジニアといった専門スキルを持った人材の採用や、地方での募集が多い農業、慢性的に人手が不足している宿泊・飲食といったサービス業においても、外国人材の活用は有効な選択肢となります。また、繁忙期などの短期的なニーズにも対応できる柔軟な労働力の確保にもつながります。
2.2. 社内のグローバル化と活性化
外国人労働者が異なる文化や価値観から来る斬新なアイデアを提供し、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性があります。日本の企業が重視する協調性や同質性が、イノベーションの障壁となる場合もある中、外国人労働者の採用はそれを打破する起爆剤となり得ます。
自らの意思で日本での就労を決意し来日している外国人労働者は、向上心が高く勉強熱心な人材が多い傾向にあり、高い意欲をもって様々な業務に取り組む姿勢は、周囲の日本人従業員に対しても良い刺激を与え、社内全体の学習意欲やモチベーションの向上、活性化が期待できます。また、日本人従業員が外国人との交流を通じて、異文化理解を深め、国際的なビジネス感覚を養うきっかけにもなります。結果として、グローバルな視点の導入が促進されます。
2.3. 海外展開への足がかり
海外進出を考えている企業にとって、外国人労働者は現地の言語、文化、商習慣、法規制に精通した即戦力となります。企業が目指す市場の言語や文化、法律に精通している外国人人材が内部にいると、言語の障壁や文化的な誤解を避け、よりスムーズな事業展開が可能になります。海外市場調査や戦略立案に役立ち、海外の取引先との橋渡し役としても重要な存在です。数年後の海外展開を視野に入れている場合、早期から関連国の外国人を積極的に採用することで、将来的なリスクを軽減し、事業の成功率が高まります。
2.4. 訪日外国人(インバウンド)への多言語対応強化
日本を訪れる外国人旅行客の数は増加の一途を辿り、政府は2030年までの訪日外国人旅行者数を6,000万人と設定するなど、観光を国の重要政策の一つに掲げています。特に接客業やサービス業では、外国人従業員が母国語や英語で訪日外国人顧客に対応できるため、顧客満足度の向上に直結します。外国人従業員がいることで、その国の文化や価値観を踏まえたスムーズな接客が可能になり、日本人従業員が外国人とのコミュニケーションに慣れることで、結果的にインバウンド対策につながることもあります。
2.5. 労働環境の改善と生産性の向上
外国人材を受け入れるために、企業がより働きやすい環境(多言語対応のマニュアル整備など)を整備する過程で、結果的に日本人従業員にとっても労働環境が改善される効果も期待できます。また、外国人労働者の新しいスキルや労働文化が業務プロセスに良い影響を与え、業務効率の改善や生産性の向上に寄与する可能性があります。例えば、ビルクリーニング分野では、深刻な人手不足に対応するため、清掃ロボットの導入促進などによる段階的な生産性向上に取り組んでいます。これは、建築物衛生法の適用対象となる特定建築物等の増加により、今後も同分野のサービス需要が増加すると想定されているためです。
3. 特定技能外国人受け入れで注意すべき3つのデメリットと課題
メリットを最大限に活かすためには、デメリットや課題も十分に理解し、対策を講じることが不可欠です。
3.1. 文化や習慣の違いによるミスコミュニケーション
外国人労働者は日本とは異なる文化や環境で育っているため、善悪や価値観の基準が異なることがあります。そのため、悪気がなくとも誤解や不信感につながってしまったり、場合によっては法に触れてしまったりする可能性もあります。
また、日本語レベルの問題だけでなくコミュニケーションに対する考え方の違いもあります。日本人は大まかな指示でも意図を汲み取って行動する傾向がありますが、海外では、業務指示は明確かつ具体的に伝えることが多く、言われた内容をそのまま実行します。察することを前提とした指示ではうまく伝わらないことがあるため、伝え方を工夫することや、それを現場にも理解してもらう必要があります。
3.2. 法的手続きの煩雑さと受け入れコスト
外国人労働者の雇用には、在留資格申請や各種届出など、日本人雇用にはない特有の行政手続きが発生します。海外現地から人材を招く場合、在留資格の申請からビザの発行、渡航までに数ヶ月の時間を要することがあります。
特定技能所属機関には、外国人労働者が安定して日本で生活・就労できるよう、住居確保や生活に必要な契約支援などの「支援計画」を実施する義務があります。これらの実施には、時間とコストがかかります。この支援に要する費用(義務的支援に係るもの)は、外国人本人に直接的または間接的に負担させることは法律で禁止されています。
3.3. 不適切な受け入れによる法的リスク・企業イメージ低下
- 不法就労助長罪: 在留資格で認められていない業務に従事させたり(例: 調理師として雇用した外国人に接客のみさせる)、在留資格を持たない外国人を雇用したりすると、企業側も罰則の対象となります(懲役3年以下または300万円以下の罰金など)。
- 「安価な労働力」という誤解の払拭と「同一労働同一賃金」の徹底: 特定技能制度は人手不足解消を目的としており、安価な労働力を確保するための制度ではありません。外国人労働者であっても、日本人と同等以上の賃金を支払う必要があります(同一労働同一賃金)。最低賃金法は外国人労働者にも適用されます。これを無視することは違法であり、企業イメージの低下を招きます。
- 差別的待遇の禁止: 残念ながら、外国人労働者に対する差別やいじめといった問題も依然として存在します。国籍や人種を理由とした募集・採用での差別、労働条件における不当な扱いは禁止されており、暴力や暴言、宗教上の行為を不当に制限するなどの行為は、パワハラや人権侵害に該当し、決して許されません。
- 保証金・違約金契約の禁止: 外国人やその配偶者、直系親族等から保証金を徴収したり、労働契約不履行に関する違約金を定める契約は、不当な行為として禁止されています。これは悪質な仲介業者の排除を目的としており、違反した場合、企業は欠格事由に該当し、特定技能外国人の受け入れが5年間できなくなる可能性があります。
4. 特定技能外国人を成功裏に受け入れるための7つのポイント
特定技能外国人の採用を成功させ、定着・活躍してもらうためには、計画的かつ継続的な取り組みが不可欠です。
4.1. 計画的な採用と要件明確化
どのようなスキルや経験が必要か、採用する職種や業務内容を具体的に定義しましょう。自社の採用予定職種に合った在留資格(特定技能1号・2号のどちらか、また対象分野)を事前に確認することが重要です。入社後のミスマッチを防ぐため、実際の業務内容、職場環境、地域の気候、生活の利便性などを正確かつ丁寧に伝え、リアリティショックを予防しましょう。
4.2. 正確な在留資格の理解と法令遵守
「就労ビザ」という言葉が使われることもありますが、正確には「在留資格」に分類されます。雇用する外国人には、その在留資格で認められている業務のみに従事させてください。違反は不法就労助長罪につながります。外国人労働者を雇用・離職した際は、ハローワークへの届出が義務付けられています(特別永住者を除く)。日本人と同様に、健康保険・厚生年金・雇用保険への加入手続きを行い、所得税や住民税の計算・源泉徴収を適切に実施してください。外国人であることを理由に、旅券や在留カードを企業が保管することは禁止されています。
4.3. 丁寧なコミュニケーションと文化理解の促進
業務指示は、「察する」ことを前提とせず、明確かつ具体的に伝えましょう。外国人労働者の日本語スキル向上を支援する言語トレーニングの機会を提供したり、社内ルールや日本の生活情報を多言語で提供したりすることも効果的です。日本人従業員向けに、外国人労働者の文化や習慣、働き方への価値観の違いを理解するための異文化理解研修を設けることも検討しましょう。
4.4. 充実した生活・職場環境のサポート(支援計画の実施)
特定技能所属機関は、以下の内容を含む「1号特定技能外国人支援計画」を実施する義務があります。
- 住居の確保: 不動産仲介支援、連帯保証人となる、社宅提供などを行います。特に特定技能外国人の場合、住居確保の支援は必須です。
- 銀行口座開設、携帯電話利用契約、電気・水道・ガスなどの生活に必要な契約手続きの支援。
- 日本の生活ルール、ゴミ出し、交通ルール、防災・防犯、医療機関の案内などを含む生活オリエンテーションの実施。
- 入社後のオンボーディングプログラムや社内ルールの周知。
- 3か月に1回以上、本人と監督者それぞれとの定期的な面談を実施し、生活や業務上の困り事を把握し、相談・苦情に対応する体制を整えましょう。問題発生時には行政機関への通報義務もあります。
- 地域住民との交流機会の提供や、地域イベントへの参加支援も促進しましょう。
4.5. 登録支援機関の活用も検討
自社で支援計画の全てを実施することが困難な場合、「登録支援機関」に支援計画の全部の実施を委託することができます。登録支援機関は、外国人材の支援に関する専門知識と体制を持っており、必要な手続きのサポートや生活支援を代行してくれます。登録支援機関への支援委託費用は、外国人本人に直接的または間接的に負担させることは禁止されています。登録支援機関の登録は5年間有効であり、更新が必要です。登録申請手数料として28,400円、更新には11,100円がかかります。
4.6. キャリアアップ支援と定着率向上
外国人労働者のモチベーション維持と定着のために、キャリアアップ計画をあらかじめ作成し、雇用契約締結前に書面で説明する義務があります。特定技能外国人が自身の責めに帰すべき事由によらずに雇用契約が解除された場合、企業は公共職業安定所などと連携し、新たな就職先を見つけるための転職支援を行う義務があります。安易な解雇や雇い止めは避けるべきです。適切な賃金設定と、能力や経験に応じた評価を行うことで、長期的な定着を促しましょう。
4.7. 助成金制度の活用
外国人雇用に際しては、人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)や、職業経験が少なく就職が困難な求職者(外国人も対象となる場合がある)へのトライアル雇用助成金(一般コース)、従業員に専門知識・技能取得のための訓練を実施する際の人材開発支援助成金(特定訓練コース)など、厚生労働省の助成金制度を活用できる場合があります。条件を満たす場合は、忘れずに申請しましょう。詳しくはハローワークや管轄の労働局に問い合わせてください。
5. 特定技能外国人採用の具体的なフロー
実際に特定技能外国人を採用する際のステップを具体的に見ていきましょう。日本人採用のプロセスと共通する部分が多いですが、特有の手続きや留意点があります。
5.1. STEP① 求人募集
自社ホームページ、外国人派遣会社、SNS、人材紹介会社、留学生向け説明会、学校への求人掲載など、多様なチャネルを活用して求人情報を発信します。募集情報は、難しい日本語を避け、英語や中国語など複数言語で提供し、応募者が理解しやすいように工夫することが重要です。
5.2. STEP② 選考
書類選考で応募者の資格や経験を確認し、その後の面接で、ビジネスマナーやコミュニケーション能力、日本語力、そして候補者の人柄や仕事に対する理解を詳しく見極めます。日本語能力試験N2レベル以上がビジネスシーンでの円滑なコミュニケーションに繋がりやすい目安とされています。
日本に在住している外国人を対象とする場合は、必ず在留カードの原本を提示してもらい、在留期限が切れていないか、氏名や在留資格に誤りがないかをきちんと確認しましょう。
5.3. STEP③ 内定
選考の結果、自社に合った人材と判断された場合に内定を通知します。
5.4. STEP④ 労働契約の締結
在留資格に問題がないことを確認した上で、賃金や労働時間、その他の労働条件を本人と詳細に協議します。日本の労働基準法に則り、労働条件通知書を必ず書面で交付し、全ての条件を明確に記載します。トラブル防止のため、契約書は詳細に作成し、外国人労働者が内容を理解できるよう、必要に応じて母国語や英語の翻訳を提供することが望ましいです。
報酬額は、国籍を理由とした差別なく、同等の業務に従事する日本人労働者と同等以上であることを確認してください。
5.5. STEP⑤ 在留資格(就労ビザ)申請・変更
外国人労働者が日本で合法的に働くためには、適切な在留資格の取得が不可欠です。海外から新規に外国人を招く場合、地方出入国在留管理局で「在留資格認定証明書交付申請」が必要です。一方、すでに日本に在留している外国人が新たな職に就く場合には、「在留資格変更許可申請」が必要です。これらの手続きは原則本人申請ですが、企業は申請取次者として承認を受けることで代行が可能です。申請には、企業概要、日本語・技能証明資料、雇用契約書の写し、1号特定技能外国人支援計画などが主な添付資料となります。手数料は、在留資格認定証明書交付申請は無料ですが、変更・更新申請はオンライン申請で5,500円、窓口申請で6,000円必要となります。審査には通常1~3ヶ月程度の期間を要します。
5.6. STEP⑥ 入社の準備
在留資格の許可が下りるまでの期間(一般的に1~3ヶ月)を利用し、入社準備を進めます。特に海外からの渡航者や県外からの転職者には、住居の手配が必須です。また、労働条件や雇用条件の詳細な説明、社会保険への加入手続き、外国人雇用状況の届出など、就業内容や生活環境に関する詳細な説明を行い、スムーズな受け入れ体制を整えることが重要です。住居費や光熱費などの費用は、外国人本人が内容と金額を十分に理解し同意している必要があり、不当に高額であってはなりません。
5.7. STEP⑦ 雇用開始
在留資格取得後、雇用契約を締結したら、外国人労働者の雇用を開始します。雇用開始後も、業務面だけでなく生活面や精神面でのサポートが継続して重要となります。
6. 外国人労働者の受け入れにおける法的注意点と企業がすべきこと
外国人労働者を雇用する企業は、日本の法令を厳守し、適切な受け入れ体制を整える義務があります。違反行為には罰則が科せられる可能性があります。
6.1. 労働関係法令の遵守
- 差別禁止と同一労働同一賃金: 採用から勤務条件まで、国籍や人種を理由とする差別は一切禁止です。報酬、教育訓練、福利厚生施設の利用など、日本人労働者と同等の待遇を提供する**「同一労働同一賃金」の原則**を守る必要があります。賃金は最低賃金以上を適切に支払わなければなりません。
- 労働時間と賃金管理: 週40時間、1日8時間の労働時間制限を遵守し、時間外・休日・深夜労働には割増賃金を支払います。労働時間はタイムカードなど客観的な方法で管理し、労働者名簿や賃金台帳を正確に作成・保存する義務があります。
- 旅券・在留カードの保管禁止: 外国人労働者の旅券や在留カードを、企業が保管することは法律で禁止されています。これは不当な私生活の制限につながる行為であり、失踪防止の目的であっても認められません。
- 保証金・違約金契約の禁止: 外国人やその配偶者、直系親族等から保証金を徴収したり、労働契約不履行に関する違約金を定める契約は、不当な行為として禁止されています。これは悪質な仲介業者の排除を目的としており、違反した場合、企業は欠格事由に該当し、特定技能外国人の受け入れが5年間できなくなる可能性があります。
6.2. 社会保険・労働保険の適正な加入と届出義務
外国人労働者も日本人と同様に、健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険といった各種社会保険・労働保険への加入が義務付けられています(一部例外を除く)。社会保険の適用事業所である場合は必ず加入させなければなりません。また、外国人労働者の雇用時および離職時には、ハローワークへ「外国人雇用状況届出書」を提出する義務があります(特別永住者を除く)。
6.3. 安全衛生の確保と健康管理
安全衛生教育や健康相談は外国人労働者にも必須です。特に日本に新たに入国する外国人については、申請日から3ヶ月以内に、日本で行う活動に支障がない健康状態にあることについて、医師の診断を受けなければなりません。在留中の者が特定技能へ変更する場合は、申請日から1年以内に日本の医療機関で診断を受けていれば診断書を提出することとして差し支えありません。母国語や図解を用いて理解しやすい方法で教育を行い、定期的な健康診断を実施しなければなりません。健康状態が良好であることは、特定技能活動を安定的に継続するための重要な要件です。
7. 外国人労働者の定着を促すための受け入れ体制と支援
外国人労働者が日本で安心して働き、能力を最大限に発揮し、長期的に定着するためには、企業側の積極的な支援が不可欠です。
7.1. 文化や仕事に対する価値観の違いの理解と対応
外国人労働者の文化や働き方への価値観を日本人従業員も理解することが重要です。例えば、ベトナムでは他の人がいる前で叱責する文化はないため、指摘すべきことがあれば本人を別室に呼び出し丁寧に説明するのがベストです。日本人従業員向けに異文化理解研修を設け、多様な価値観に対応できるよう配慮することで、円滑な職場環境を築けます。また、入社前に実際の業務内容、職場環境、地域の生活利便性などを正確に伝え、リアリティショックを防ぐことも大切です。
7.2. コミュニケーション支援
外国人労働者の日本語スキル向上を支援する日本語学習の機会を提供したり、日本語学習教材やオンライン講座の情報提供、必要に応じて同行して手続きの補助を行うことも効果的です。業務指示は曖昧さを避け、明確かつ具体的に伝達することを心がけましょう。
7.3. 生活面のサポート体制整備
入社前の説明(労働・雇用条件、社会保険手続きなど)から、入社後の生活サポートまで多岐にわたる支援が求められます。具体的には、
- 銀行口座開設、住居探し、携帯電話の利用契約、電気・水道・ガスなどのライフラインに関する手続の補助
- 日本の生活ルールやゴミ出し、交通ルール、防災・防犯、医療機関の案内などを含む生活オリエンテーションの実施
- 職場環境のサポートとして、オンボーディングプログラムや社内ルールの周知、メンターの選定
などが含まれます。
7.4. 定期的な面談と相談体制の確保
業務面だけでなく、生活面や精神面でのサポートとして、定期的な面談(3ヶ月に1回以上が目安)を実施し、外国人労働者と彼らを監督する立場の日本人従業員双方から状況を把握することが推奨されます。相談や苦情の申し出があった際には、遅滞なく適切に対応し、労働基準監督署その他の関係行政機関に通報する義務もあります。相談体制は、複数の職員を確保し、外国人労働者の勤務形態に合わせて、週当たり勤務日に3日以上、休日に1日以上対応するなど、相談しやすい時間帯にも対応できることが求められます。
7.5. 非自発的離職者への転職支援
外国人労働者が自身の責めに帰すべき事由によらずに雇用契約を解除される場合(倒産や解雇など)、企業は公共職業安定所などと連携し、新たな就職先を見つけるための転職支援を行う必要があります。安易な解雇や雇い止めは避けるべきです。この際には、ハローワーク等を利用して転職先を探すことが可能であること、転職には在留資格変更許可申請が必要であることなどの法的保護を図るための情報提供を実施することが求められます。
7.6. 雇用労務責任者の選任
外国人労働者を常時10人以上雇用している企業は、人事課長を始め役職にある者を「雇用労務責任者」に選任し、外国人材の雇用管理を統括することが推奨されています。
7.7. 共生社会の実現への協力義務
特定技能所属機関は、外国人労働者が活動する事業所の所在地や住居地を管轄する地方公共団体から、共生社会実現のための施策(例:行政サービス案内、交通ルール、医療、防災訓練、地域イベント、日本語教室など)への協力を要請された場合、これに応じ、必要な協力を行う責務があります。
8. まとめ:特定技能外国人採用で、企業の未来を切り拓く
深刻な人手不足が続く日本において、外国人材の雇用は企業の持続可能性を高める重要な戦略となり得ます。特定技能外国人を採用することは、人材不足の解消、グローバルな視点の導入、生産性の向上、訪日外国人対応強化、社内活性化など、多岐にわたるメリットをもたらします。
しかし、同時に文化・言語の壁、煩雑な手続き、差別問題といったデメリットや注意点も存在します。これらの課題を克服するためには、企業は適切な情報収集と日本の法令遵守(特に同一労働同一賃金や社会保険・労働保険の加入など)を徹底し、外国人材への深い理解と、生活面や精神面を含む包括的な採用とサポート体制を構築することが不可欠です。自社での対応が難しい場合は、登録支援機関などの外部専門機関の活用も有効な選択肢となります。
適切な準備と支援を通じて、外国人材は単なる労働力としてだけでなく、企業の新たな価値創造と成長に貢献する重要なパートナーとなります。今後も増加が見込まれる外国人材を長期的な視点で活用し、共生社会の実現を目指すことが、企業の持続的な発展に繋がるでしょう。
外国人労働者の採用や活用についてのご相談は、ぜひお問い合わせください!
