【企業向け】外国人労働者採用ガイド:制度・メリット・デメリットから定着支援まで

日本企業における外国人労働者の現状と受け入れのポイント

近年、日本企業は深刻な人手不足に直面しています。厚生労働省の発表によると、2025年2月の有効求人倍率は1.24倍に達し、求職者よりも求人数が多い「売り手市場」が続いています。このような状況下で、国内で働く外国人労働者の数は右肩上がりで増加しており、2024年10月末時点では230万人を突破し、過去最高記録を更新し続けています。外国人労働者を雇用する事業所の数も、2024年10月末時点で約34万箇所にのぼり、この6年間で約1.58倍に増加しており、外国人を雇用する動きが拡大していることがわかります。

外国人労働者の国籍を見ると、ベトナムが最も多く全体の約25%を占めています。業種別では「製造業」が26.0%で最も多く、次いで「サービス業(他に分類されないもの)」が15.4%、「卸売業、小売業」が13.0%となっています。人手不足が深刻な分野ほど外国人労働者の受け入れが進んでいることがうかがえます。


就労可能な在留資格と特定技能制度

外国人が日本に滞在し就労するためには、適切な**「在留資格」(ビザ)**が必要です。在留資格には、働くことが認められているもの、条件付きで認められているもの、一切働くことが許可されないものがあり、雇用後に任せたい業務と在留資格が一致しているかを確認することが不可欠です。企業が働ける在留資格を持っていない外国人を雇った場合、または在留資格で認められていない就労をさせた場合、不法就労と判断され、雇用主も罰則の対象となる恐れがあります。

国内の深刻な人手不足に対応するため、2019年に**「特定技能」**という在留資格が創設されました。この制度は、人手不足が深刻な産業分野において、一定の専門性・技能を持つ外国人が就労することを認めるものです。特定技能の対象分野は、介護、農業、漁業、宿泊、外食業など16分野に拡大されており、今後も対象分野の拡大が見込まれています。

特定技能1号と2号の特徴

特定技能には1号2号があり、それぞれ異なる特徴を持っています。

  • 特定技能1号:
    • 在留期間は通算5年が上限です。
    • 家族帯同は不可とされています。
    • 相当程度の知識または経験が求められ、各分野の技能試験と日本語試験に合格することが要件です。日本語能力については、日常会話ができ、生活に支障がない程度(日本語能力試験N4レベル以上が目安)が基本とされています。
    • 人手不足対策として創設されたため、一定の単純労働も対象業務として認められています。
    • 取得に学歴要件がないため、挑戦しやすい在留資格と言えます。
  • 特定技能2号:
    • 在留期間に上限がありません。
    • 要件を満たせば家族帯同が可能となります。
    • 熟練した技能が求められ、試験等で証明が必要です。1号を経由せずとも直接2号の技能水準を満たしていれば取得可能です。
    • 特定技能16分野のうち、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業を除く12分野が対象です。

特定技能と似た名前の「技能実習」は目的が大きく異なります。技能実習は、外国人への技能移転と国際貢献が目的であり、労働力確保を目的とするものではありません。そのため、原則として転職はできず、家族帯同も認められません。しかし、実態が労働力として扱われたり、実習生が高額な借金を抱え失踪したりする問題が発生したため、技能実習制度は廃止が決定されており、代わりに**「育成就労制度」**が創設されることになりました。


外国人労働者受け入れのメリット

企業が外国人労働者を受け入れることには、多くのメリットがあります。

  • 人手不足の解消・労働力の確保: 日本人だけでなく外国人材を採用対象に加えることで、求職者の母数が増え、採用に苦戦していた職種でも望む人材に出会える可能性が高まります。特に、電子・電気や機械系のエンジニアのような専門スキルを持つ人材、地方での募集が多い農業、慢性的に人手が不足している宿泊・飲食業といったサービス業において、外国人材の活用は有効な選択肢です。少子高齢化が進む中、若年層の人材確保をカバーできる点もメリットです。日本で働こうとする外国人労働者は、日本語の学習や業務スキルアップに対し意欲が高い傾向が見られます。
  • 訪日外国人への多言語対応・企業のグローバル化: 日本語だけでなく、英語やその他の外国語を母語とする従業員を雇うことで、訪日外国人への対応力を高めることができます。政府は2030年までに訪日外国人旅行者数を6,000万人と設定しており、彼らの文化や価値観を踏まえたスムーズな接客が可能になります。さらに、海外に支社を持つ企業や海外展開を考えている企業にとって、外国人労働者は現地の文化や商習慣、価値観に精通しているため、市場理解の促進や国際展開の戦略において貴重な即戦力となり、ビジネスの成功率を高めることができます。
  • 採用コストの最適化・助成金の活用: 人手不足が深刻な職種では、採用期間が長期化し、採用コストが膨らむことがあります。外国人を含むことで求職者の数が格段に増え、採用サイクルの短縮化が期待できます。また、外国人を受け入れる際に活用できる国や自治体からの助成金制度もあり、**「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」「キャリアアップ助成金」**などが挙げられます。これらの制度をうまく活用することで、採用コストの負担を軽減できる可能性があります。
  • 社内の活性化・斬新なアイデアの創出: 外国人労働者は、日本人には思いつかないような斬新なアイデアや異なる視点、アプローチを提供することがあります。多様な人材が加わることで、組織の柔軟性が増し、新しいビジネスチャンスが生まれることも期待できます。

外国人労働者受け入れのデメリットと注意点

外国人労働者の受け入れには、メリットがある一方で、いくつかのデメリットや注意点も存在します。これらを事前に把握し、対策を立てることが重要です。

  • 文化や習慣の違い: 外国人労働者は日本とは異なる文化や環境で育っているため、善悪や価値観の基準が異なり、誤解や不信感につながることがあります。例えば、仕事よりも家族との時間を重視する文化の出身者は、家族のイベントで休暇を取る傾向があるかもしれません。事前に相互理解を深める研修を設けたり、働き方への価値観の違いを日本人の従業員にも共有することが推奨されます。
  • コミュニケーションの難しさ: 外国人従業員の日本語レベルによっては、意思疎通がうまくいかないことがあります。また、日本人の「察する」文化と、海外の「明確かつ具体的に伝える」指示の文化の違いから、コミュニケーションのすれ違いが生じる可能性もあります。伝え方を工夫することや、雇用後の日本語スキル向上支援が求められます。面接段階で会話力を確認することも重要です。
  • 雇用手続きの煩雑さ・受け入れまでの時間: 外国人労働者の雇用には、特有の手続きやルール、必要な支援があり、日本人を雇用する場合と異なります。海外現地から採用する場合、ビザの発行や渡航までに時間がかかるため、採用後すぐに勤務を開始できません。日本在住の外国人材でも、在留資格の変更手続きに時間を要することがあります。
    • 在留資格の確認と適合: 外国人を雇用する際は、対象となる外国人が持つ在留資格で就労活動が許可されているか、また、その在留資格の種類と業務内容が合致しているかを必ず確認する必要があります。不法就労をさせた場合、企業側にも罰則が科される可能性があります。
    • 届出義務: 企業は、外国人労働者を雇用した際、および離職した際に、ハローワークへ「外国人雇用状況届出書」を提出する義務があります(特別永住者を除く)。
    • 社会保険・税関連の手続き: 外国人労働者も日本人と同様に、健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険といった各種社会保険・労働保険への加入が義務付けられています(一部例外を除く)。所得税や住民税の計算・源泉徴収も適切に行う必要があります。
    • 差別的待遇の禁止: 採用過程から勤務条件まで、国籍や人種を理由とする差別は一切禁止されています。日本人労働者と同等以上の賃金を支払い、教育訓練や福利厚生施設の利用など、「同一労働賃金」の原則を守る必要があります。また、外国人の旅券や在留カードを企業が保管することは法律で禁止されています。特定技能制度では、外国人本人やその親族等から保証金を徴収したり、契約不履行に対する違約金を定める契約を締結させたりすることは認められていません。
    • 生活面も含めた支援体制の整備: 外国人が新しい環境にスムーズに適応し、業務に集中できるよう、入社前の説明、労働条件や社会保険加入手続き、銀行口座開設、住居探し、日本での生活情報提供、日本語学習サポートなど、生活面を含む包括的な支援体制を整えることが不可欠です。
    • 受け入れ困難時の届出: 特定技能所属機関は、特定技能外国人の受け入れが困難となった場合(例: 経営上の都合による解雇、行方不明、病気・怪我による雇用の継続困難など)は、事由発生日から14日以内に地方出入国在留管理局へ届け出る義務があります。

外国人労働者受け入れのステップ

外国人労働者を雇用する手順は、基本的に日本人を雇用する場合と同じですが、特有の手続きがあります。

  1. 人材募集: 自社のホームページや外国人派遣会社、SNS、留学⽣向けの企業説明会、学校への求⼈掲載、人材紹介会社などを通じて求人情報を出すことができます。応募者の理解を促すため、複数の言語で情報を用意することが推奨されます。
  2. 選考・内定: 書類選考や面接を通じて、応募者の資格や経験、ビジネススキル、コミュニケーション能力、日本語能力、人柄などを確認します。日本在住の外国人を選考する場合は、必ず在留カードの原本を提示してもらい、在留期限や氏名、在留資格に誤りがないか確認しましょう。
  3. 労働契約の締結: 在留資格に問題がないことを確認した上で、賃金や労働時間など、日本の労働基準法に則り、書面で労働条件を明確に定めます。トラブル防止のため、外国人労働者が内容を理解できるよう、必要に応じて母国語や英語の翻訳を提供することも重要です。
  4. 在留資格申請・変更: 海外から外国人を招く場合、入国管理局(出入国在留管理庁)で**「在留資格認定証明書」の交付申請を行い、在留資格を取得する必要があります。すでに日本に在留している外国人が新たな職に就く場合は、「在留資格変更許可申請」**が必要です。これらの手続きは、外国人が日本で合法的に働くために不可欠です。企業側がサポートすることが不可欠とされる場合もあります。
  5. 入社準備・雇用開始: 在留資格の申請後、許可が下りるまでの1〜3ヶ月間を利用して入社準備を進めます。海外からの渡航や県外からの転職の場合は住居探しを行うなど、労働者が新しい環境でスムーズに仕事を開始できるよう、仕事内容の説明や就業に必要なものを準備し、適切な受け入れ体制を整備することが重要です。リアリティショックを防ぐため、実際の業務内容や職場環境、地域の気候、生活の利便性など、詳細な情報を分かりやすく伝えることが大切です。入社後は、業務面だけでなく精神面でもサポートするため、定期的な面談を実施し、労働者の状態を確認する場を設けることが重要です。

外国人材の雇用は、労働力確保、企業のグローバル化、職場活性化といった多くのメリットをもたらしますが、同時に文化・言語の壁、煩雑な手続き、差別問題といったデメリットや注意点も存在します。これらの課題を克服するためには、企業は適切な情報収集と日本の法令遵守を徹底し、外国人材への深い理解と、生活面や精神面を含む包括的な支援体制を構築することが不可欠です。自社での対応が難しい場合は、登録支援機関などの外部専門機関の活用も有効な選択肢となります。適切な準備と支援を通じて、外国人材は単なる労働力としてだけでなく、企業の新たな価値創造と成長に貢献する重要なパートナーとなり得ます。

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